おいしい炊飯の秘訣

熱量多いIH釜で浸漬2時間確保を‐その12‐

 かつての朝食はほとんどがご飯で、コメは夜のうちに仕込んだ。朝まで浸漬することによってアルファ化(注1)に不可欠な水分がコメの芯まで染みわたり、浸水の過程でオリゴ糖などうまみ成分が形成された。しかしスピード・効率優先の時代となり、この吸水がおろそかにされる場合が多くなった。

 どんなによく実った良食味米であっても、コメの芯まで自然な吸水を行わないと、ふっくらご飯にはならない。おいしいご飯にするには、最小の30分ではなく、つねに2時間は浸漬してコメの持つ最大限の味を引き出す必要がある。

 釜の種類も大切で、安価なマイコン釜では熱量が足りず、硬くポロついた粘りの少ないご飯になりやすい。芯までふっくらしたご飯にするには、たとえ高価な製品でなくともIH釜の使用で熱量を確保したい。また十分なアルファ化を促すために5合なら3合程度と、炊飯器をその釜の最大能力の7割程度にとどめ、コメの対流空間を確保したい。

 一般的にマイコン釜は3合程度で350ワット、5合で600ワットだが、IH釜は3合で600ワット、5合で1200ワット程度と2倍近い差がある。加熱量はIHが断然優位だ。ただしバーゲンの安値マイコン釜の中には、ヒーターがむき出しで、薄いハガネの内釜が逆に効を奏する形で熱量の減少を補い、直火効果でふっくら炊き上げる掘り出し物もある。要は、いかに効果的にコメを加熱してアルファ化を促すかが、おいしいご飯の決め手になる。

(注1)アルファ化(糊化) でんぷんの結晶構造が、水と熱の作用でほどけて膨張し、粘性の強い糊になること。ここでは文脈からコメを水に浸けて、炊飯器で加熱してご飯にする一連の行程をアルファ化と言っています。

強火力がもっちりご飯仕上げの秘訣‐その13‐

 電気炊飯器で上手に炊いたご飯は、全般的に軟らかで、粘りに富む。これに対して土鍋で炊いたご飯は、その多くが硬めで、強い粘りを持つ。熱源と釜の素材の違いに原因があり、ガスはやはり電気ヒーターより火力に勝る。電気炊飯器はどんなに内釜に工夫を凝らしても、電子機器を内蔵しているため熱量に限界があり、とくに最後の蒸し煮と煎りの工程に制約がある。これに対して土鍋は、加熱の制限がなく、思う存分に余分な水分を飛ばすことができる。ややコゲ加減まで加熱すれば、香ばしいかまど風味のご飯ができ上がる。

 ご飯は初期の加熱を弱くして時間をかければかけるほど、コメの吸水が過ぎて細胞が崩れ、軟らかい食感になりやすい。マイコン釜のご飯が全般に軟らかめで、コシが弱いのは、最初から最後まで熱量に制約があるためだ。土鍋で良く炊けたご飯が硬めで強い粘りを持つ理由は、この熱量の違いにある。

 土鍋ご飯が硬すぎると感じる人は、最初の3分ほどを弱火にして、沸騰までの時間を長く取れば、硬い食感が減る。しかしあまり弱火が長いと、もっちりと強い粘りの土鍋ご飯の持ち味がなくなる。

 電気炊飯器も土鍋も、水分があるうちは釜内のコメの温度は100度にとどまる。コメに水分が取り込まれてしまうと、釜内部の水分がなくなり、コゲ始める。おいしいご飯にするには、この最後にコゲ始める手前まで十分に加熱し、余分な水分を飛ばす必要がある。

理想的なご飯釜は対流促す縦長形状‐その14‐

 ガスで炊く土鍋も多種多様で、1000円ほどの安価なものから、700度にも耐える高級セラミック製の2万円程度のものまである。一般家庭にある鍋料理用の土鍋でもご飯は炊けるが、横長扁平のためコメの十分な対流を促すことができない。また、ご飯専用とうたう土鍋は、吹きこぼれを防ぎ、加圧効果を狙って中蓋をつけて二重蓋としたものも多い。しかし二重蓋は一見、機能的に見えるが、中蓋がコメのアルファ化を促すために大切な縦対流を妨げるため、最適な炊飯土鍋とまではいかない。

 炊飯用の土鍋も形状がマチマチのため、炊く量を目安に数種類を試してみたい。ご飯を炊くには、鍋料理に使う横に平たいものでなく、コメの対流を妨げない縦長のものがて適している。

 また「峠の釜飯」で知られる荻野屋のお弁当容器の陶器釜でも、1合を炊くことはできる。もっとも蓋が軽い上に隙間があり、圧がかからず蒸気が逃げてしまうため、ふっくらおいしいご飯を炊くには役不足だ。最初はホームセンターなどで販売されている1000円ほどの安価なもので試してみてから、1万円以上の高級釜を購入して感じをつかむのもいいだろう。

 おいしいご飯の極意は、強火力で釜を包み炊きにして一気に炊き上げることにある。少し高めだが、むかしのかまど加熱を再現した二重釜構造のセラミック釜は、外釜の持つ抜群の蓄熱効果がかまど炊きを実現できるため、やはりお勧めだ。